花つき言葉
大村 浩一

 花つき言葉   −もとこへ−


一周年の祝いに
なにか書いてみせようと思ったが
気負いのせいかどうもうまく書けず
かといって最初の年に
なんにもなしでは済まないぞと思い
月並みだが花でもと
神田駅のちょっと先のお花屋まで足を運んだ
そこは彼女と遠距離していた頃
よく花を送り出した店
「3千円位で黄色で可愛らしく」とか言えば
大体良い感じにしつらえてくれる

ハァこれでひと安心と思ったら
注文書にメッセージの記入欄がある
そうだった
花にはメッセージを添えるものだ
まあこの時期に俺からだから
葬式と間違えるはずも無いが
メッセージが付けられるのに付いていなかったら
付いているのにそれが空欄のままだったら
相手違いとか意趣返しだとか
彼女からあらぬ憶測を呼びかねない
ここはひとつ詩人らしく
何か気の効いた一言が是非欲しいところだが
考えたらそのひとことが出て来ないから
花にしたんじゃないか
折角花にしたのに、何か言わなきゃなんないのか
「風林火山」
とかふざけて書いてやろうかと思ったが
空欄にするよりも後味の悪いことになりそうで
せめて
「メリー、正月 一周年めでたいにゃん」
くらいは言ってみたかったのだが
のちのち不仲になった時
「メリー、正月 一周年めでたいにゃん」
が、かすがいになってくれるとは到底思えないので
結局平凡に、前にも書いた
「愛をこめて」と素早く書いて
店の人に手渡して出た


あたりは夕暮れ
あすの今ごろ俺より先に家に届くだろう
こんな具合いにいろんな人の
よく似た特別でない特別のメッセージが
あの記入欄を通って行っただろう
なかには届かないものもあっただろう
俺に届く先があるのは嬉しい


初稿 2006/06/22
初演 2006/07/08 第3回『言鳴』(京都)にて


自由詩 花つき言葉 Copyright 大村 浩一 2006-07-17 15:26:26
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