花火
モーヌ。




火の大輪が 咲きほこるのを 待った

ふたり 森蔭の 薄明の ベンチで...





おおきな 火祭りのピエロ 花火よ





ひかりの 満ち潮を ください

あのひとを もっと よく 見るために

闇と 婚約した 日曜日の あかるさで





ひかりの 引き潮を ください

ひかりが 引いてゆく 闇間に ひろがった

あのひとの りんかくに 触れるために





くら闇を ください すてきなのを

あのひとを 想い出すために とっておきのを





ぼくは 幸福ではないのに

見るひとまで 不幸にしたくないって

口角を あげて ぎくしゃくと ほほえむ

きみの こまったような

セピアいろの ほほえみ と 沈黙が 好きだ





アップにした 髪から くだものの 清らかな

ほの甘さが 滴って いる

草花の意匠に かざられた 藍染のゆかたごし

きみのからだの 濡れた あたたかさに 触れると

ぼくはからだごと ずっと永い おもいでのように

甘く熟した 透明な 残光に 揺れる





酔っぱらった夜 愛されている きみの顔

そんなこと ぼくのほかに 花火だけが 知った夜





なにか たのしく なぜか かなしく

ふたつに 切り裂かれてゆく モーゼの海のように

ことばが 芽吹いて わかたれてゆくものの

走句を 聴いた

ふかく こころに 沈んでゆくものを...

また 人生を 始めよう

別々に





おもいでの おもざしを 遠望するかのように

その夏を 越えてきた とおい国からの

角のかすれた 木の葉の 風聞が いつか とどく





きみは 嫩く 結婚して

年子で 三つ子と 双子を 生んだのだと

五人の 子どもの たくましい母親なのだと...





いまでは きっと きみは

華奢だけれど 大地に 立って 土を握り

スカーレット・オハラの 叫びみたいな

装うことのない 笑顔をして ほほえむのだろう

いまでは ぼくは それのほうを 愛するだろう





花火よ

ひかりの 満ち潮を ください

ひかりの 引き潮を ください

くら闇を ください すてきなのを

あのひとを 想い出すため とっておきのを














自由詩 花火 Copyright モーヌ。 2006-07-16 16:33:11
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