仮死因
狩心

俺は歩道を歩かない 時速2キロで車道を歩く 
だから 沢山の運転手に迷惑をかけた
運転免許は持っているが 乗り物がないから
もう10年も運転していないペーパードライバーだ

俺を轢き殺した乗り物は一台もない
乗り物に道を譲る人々は 鏡に自分を映すばかりで 鏡の中の世界を知らない

鏡の中は 仮死因 で満たされている 

乗り物に乗った人々が どんどんと俺を追い抜いて行く
一体何処へ行くんだい? だれも答えてくれやしない
いや 彼ら自身も分からないのだ 一体何処へ向かっているのか

鏡の中の世界から こちら側の世界を覗いてみる
死因 死因 死因 叩きつけられた 物語のみ 目に映る!
ちくしょう! 死因は虚像だ 仮死因こそ私たちなのだ!
死ぬな 死ぬな 死ぬな 落胆している者たちよ 探す事をやめるな! 
こちら側の世界を仮死因で満たせ!

三段論法の信号機 交差点で心すれ違う人々
横たわれ! 交差点の怒真ん中で!
盛り上がれ死火山 人々の眼球を熱気で抉り取れ
積み重なる仮死体 幽体離脱 盲目のヒッチハイク!

俺を乗せてくれ 初めて乗るんだ 
この乗り物は乗り物ではないと言ってくれ
俺に子守唄を歌ってくれ このままハイスピードで伝心柱にぶつかって
俺を仮死因で満たしてくれ 

ここは歩行者天国! 何度でも死を体験できる!
 
世界を蜃気楼で歪ませる 時速2キロのペーパードライバーで
仮死因に裏打ちされた炎 どうせなら 交通事故で死なせてくれ

でもよ そんな宝くじみたいな事 待ってなんかいられないんだよ
俺を轢き殺す乗り物は 俺が作る! 誰にも運転できないやつを

鏡を己の拳で割れ 充血した目の悪態をガラスの破片で終わらせろ
失明した事を喜べ 指先の感触を信じて 閉ざされた心を開く妖怪にでも成れ!  


自由詩 仮死因 Copyright 狩心 2006-07-11 09:30:43
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