シホ

あるスピードをもって
街の夜明けをめぐっていると
辻つじを曲がるたび
まあるい月が現れては消え
消えては現れるのだ。
四角い建物の影に、
あるいは影から。
黒い樹樹のあいだに、
あるいは影から。

僕は月の姿に
畏怖のような気もちをいだき
月に支配されてゆく過程にあった。
不本意ながらも惚れてしまった
愛情きわまる憎しみなのだ、
見ていたいだけなのに
逆に見られて萎縮してしまう
ふがいない僕自身への憎しみなのだ。

つづきうねる道はただくらく
それだからなお
月の光は冴えている。
街の夜明けをめぐっていると
月の姿は美しく
現れて消え消えて現れる。
僕は自由に冒されていて
それで月に支配されてゆく
その錯覚に恍惚とする。

束縛にかつえるように自由なままに
街の夜明けをめぐっていると
新聞が戸々のポストにコトンと落ちる
音にまぎれて
僕の胸の奥で
なにかがコトンと音をたてる。
恍惚の向こう側には
月がくっきり冴えている。


自由詩Copyright シホ 2006-07-11 02:51:42
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