透明な夜を照らす
むらさき
風は無い
私と
あなたのすき間には
いくつもの
透明な夜が並んでいる
わたしはマッチを擦る
あなたに語る言葉を
探すために
わたしとあなたが
共にいた時間を
つなぎ合わせて
一本のロープの上に
置いたとしたならば
それは明け方の光より
長くなるだろうか
私とあなたが
共にいなかった時間に
わたしは
あなたが知らない香りを
放ち
あなたは
わたしに言いそびれた言葉を
一人 駅のホームで
放つ
わたしの指先で
あなたの鼓動が
静かに響くので
その一定のリズムを
置き時計で
数える時
私は
確かに
微笑んでいる
放心している事が
幸せであるかもしれない
その新しい疑惑が
今夜もまた
わたしにあなたの夢を見せる
風は無い
わたしとあなたのすき間には
いくつもの
透明な夜が並んでいる
床につくと毎夜
天井に同じ小さなしみを
見つけるように
わたしは
あなたのかたちを
いたるところで
見つけるだろう
古い椅子の影や
格子窓の明かりや
開けたままのドアに
まったく
久しぶりのように
その時
わたしは確かに
微笑むのだが
あなたは
そこにはいないのだ
記憶のあなたと
肉体のあなたが
出くわすことがないように
細心の注意を払いながら
夜を歩いていく
あなたの名よ
それはいつまでも
生温かい呪文で
それを再び呼ぶために
わたしは
捉われてゆかない
世界の
穏やかな孤独に