溶け出す午後
夕凪ここあ

窓に
張りついた夏、
グラスの中で氷が
音もなく溶けていく午後
少し薄まったアイスコーヒー
にミルクを少し加える
ゆっくりと拡散していく、
ゆっくりと沈殿していく、
夏。

あの頃少女は
体育座りのプールサイド
スカートから覗く足
綺麗に切り揃えられた爪に
半透明な空を映して
憂鬱さを纏った瞳を
すっと水面に逸らす、少女。
教科書の一番好きだった
詩の言葉が出てこない
木陰から覗く生温かい午後。
少女は、
持て余した空色の爪先を
爪先よりも透明に似た
水面に滑りこませる、午後。
少女の体の一番端っこの
少女が、水の底へと。

ゆっくりと拡散していく、
ゆっくりと沈殿していく、
夏。

透明に似ていても
見えない
揺らいでしまった夏。
を繰り返して、
少女はもう
体育座りなんて言葉すら
忘れてしまった
窓の外で
憂鬱なほど
夏が始まっている

一番好きだった
言葉の載った詩の一片でも
澱のように
残っていたらいいのに、
グラスの中で
少女だったものは
溶けていく
もう形もわからないほどに。


自由詩 溶け出す午後 Copyright 夕凪ここあ 2006-07-07 00:18:41
notebook Home 戻る