ヒーロー伝説
佐野権太

ブルーチップの青いリスは
目を離すと、すぐに増殖して
ガマ口をはみ出してしまうから
台紙にきちんと貼りつけなければいけなかった
母は台紙をもらってくれると約束をしたのに
永遠と立ち話をやめやしないから
尻にまとわりついて
チョップや
ため息光線を浴びせてやった

和菓子屋の陳列ケースは
木枠のガラス蓋の底に
おはぎを、しっとり重ねていて
宝石のように厳重に守っていたけど
いつ魔の手が伸びるかわからないから
透明な蓋が持ち上げられる度に
覗き込んで
その数を確かめていた

秀くんちは
角を2回も曲がった遠くにあるのに
しがみついた庭のブロック塀の穴は
どういうわけか
秀くんちの裏庭につながっていた
秘密は誰にもしゃべってはならなかった

椎茸のバター焼きと
ほうれん草のピンクのところは
『ニッキ・ニャッキ』の呪文を唱えても
消えてはくれないから
鼻をつまんで
牛乳で流し込んだ
決して、涙を見せてはならなかった

日本に侵攻してきたパンダに
誰もが浮かれていたが
毛皮の中に、スパイが潜んでいるかもしれないから
おもちゃ屋の店頭に並んだ、ぬいぐるみさえ
睨みつけていた
ふいに、父が胸に押しつけたのは
一番小さいやつだったが
黒も白も、妖しい金色に輝いていて
抱きしめると
夕焼けの匂いがした



ヒーローには、なれなかった

立ちはだかる、高層ビルを見あげ
ネクタイを緩める

涙を流しすぎたのか

やっつけなければならないものは
まだ、たくさんあるのに
あの頃のチョップは
もう、
切れ味をなくして


自由詩 ヒーロー伝説 Copyright 佐野権太 2006-07-06 11:22:50
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