自転車・トランシーバー、大和川
たりぽん(大理 奔)

引き出しの奥から出てきた
古ぼけたトランシーバー
適当なチューニングのまま
大和川、南側の土手を
ノイズと一緒に
大阪湾へ向かって自転車を走らせる

いくつもの道を横切って
いくつもの水たまりが雨上がりの空を映して

  聞こえない
  聞こえない
  かって発信された
  声は聞こえない

深いくぼみに前輪を取られ
トランシーバーは私と一緒に
ちがやの湿る土手っぷちに
投げ出される
さようなら

工場のはき出す水蒸気が立ち昇って
夕暮れ時、大阪港まではまだ遠く
かって叫んだあの声が
ノイズから解き放たれて
投げ捨てる、古ぼけた
聞こえない気持ち

立ち上がり耳を澄ますと
遠くで、遠くで、
遠くでフェリーの汽笛

誰かの旅が
はじまるから
投げ捨てる
糸電話より届かない
電気仕掛けの





未詩・独白 自転車・トランシーバー、大和川 Copyright たりぽん(大理 奔) 2006-07-04 00:02:08
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