焼肉情事
石畑由紀子
腹減ったから
なんか 食おうぜ
って
入ったところは
今どき珍しい
換気扇が壁にひとつ付いてるだけの
けむけむの
もくもくで
ねぇ
さんにんで会うときは
賑やかなのに
たまにわたしたちだけで会うと
こんなに
静かになってしまうね
とりあえずビールと
あ、お前はウーロン茶
カルビとサガリと
タン塩 あと 豚キムチ
飯は 後からで いいよな?
ねぇ
そうやってなんでも
ひとりで決めてしまうね
いつも
そんななら
いつか嫌われちゃうよ
なんて
言わない
おまえなんて
嫌われちゃえ
じゅう
じゅう
じゅうじゅう
テーブルを挟んで
あなたは黙々と
肉を焼く
ねぇ
食べるのは
わたしたちふたりだけだよ
そんなに乗せちゃ
食べるのが追いつかなくて
あとで焦がすよ
なんてことも
言わずに
ただ
黙って
皿と鉄板を行き来する
箸先を
見ている
だんだん
煙でかすんで
あなたが
ゆらゆら
もくもく
見えなくなる
見えなくなる
ねぇ
そうやって
いつもそうやって
わたしをけむに巻いてきたの
知ってる?
あの時も
あの時もあの時だって、それと
あの
まだわたしは
答えを
もらっていないの
知ってる?
それなのにあなたは
こんなところに
わたしを連れてきて
タン塩にすごく気を遣ったりして
焼けたカルビを
焼けたサガリを
わたしの皿に盛って
本当はこういうこと女がやるんだよな
って
言いながら
わたしに
手出しもさせないくせに
そうやって
あなたはいつでも口が悪くて
やさしい
焼肉をつつきあう男女は
もう
デキてるんだから
ヤッてるんだから
って
ほら、わたしたち
このフロアにいるひとたちみんなからきっと
そんなふうに
見られてる
のか
な
あつい
あついよ
ねぇ そうやって
いつまでも
わたしを焼きっぱなしにしておくつもりなの
もう
いいよ
もういいよ
はやく
もうこいつ焦げてるからいらねぇよ
って言って
その小皿に放ってよ
もう
あなたと
ふたりでは会わない
さんにんでも会わない
あなたとは会わない
今日が
最後だよ
って
知ってるの?
結局
最後まで
きれいに焼き上げて
きれいに
食べちゃって
なぁ
デザート食べるか
おまえなんて
大嫌いだ
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