文字が失うもの。
えりおん
時々、半年に一度くらい、文字が判らなくなる時がある(時期があった)。
この日本語というものが、意味のない記号のように見えるんだ。
例えば、『あ』という文字。
可笑しくないか?
線が、三本、妙な形に曲がりくねって、絡み合って、
可笑しくないか?
何、この黒い細い線?
得体の知れない、ものじゃない?
紙から、飛び出すかもしれない。
動き出すかもしれない。
トコトコこっちに歩いてきて、「やあっ」って、言うかもしれない。
そうしたら、僕は何て挨拶しよう?
こんなに毎日会っているのに、「初めまして」じゃあ失礼だろうし…
迷っているうちに、『あ』くんは、
(どうでもいいけど、あっくんと似てるな)
とっとと紙の中に戻ってしまった。
なんだ、薄情なやつ。
話したくないなら、出てこなければいいのに。
迷っていた自分が馬鹿らしく思えて、
愚痴を言いながら僕が、紙の中の彼の顔を窺うと、
居なかった。
彼は、“文字”になっていた。
ちょっと寂しい気もした、けれど、
『あ』の次は、『い』だった。
繋がっただけで、情景に吸い込まれて、僕は、
彼の代わりのものを、手に入れた気がした。
「じゃね。また半年後。」
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最近。思い出した。
半年後、『あ』くんは来なかった。
何年経っても、来なかった。
今日も至る所で感動を生み出している文字群。
その中に、僕の友達が、眠っている。
***
文字に意味がある時、失うものがある。
未詩・独白
文字が失うもの。
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えりおん
2004-02-25 23:31:11