原石
千波 一也


あの頃は
生まれたばかりの気分でいたけれど
あの頃の僕は
生まれてさえいなかったのだと
思う

もしかすると
こんな僕も
未だ知らないところで同じように
恥ずかしそうに
解ける笑顔であるかも
知れないけれど



幾らでも願いはあって
幾らでも迷いはあって
限りの無いそれらは
始まるものでも終わるものでもなく
月が月であることも
海が海であることも
おそらくは永久に脅かされないだろうことと
よく似ている



僕がいま
こころという名を与えるものは
殻に過ぎないかも知れない
或いはまだまだ殻の殻
しかし
忘れてはならない
澄み渡ってゆけるちからの根源が
そこに眠っていることを

腕に物を言わせて
突き破るちからではなく
澄み渡ってゆけるちからを
その根源を



光はいつも光のなかに在る
闇は標のひとつであって
闇は光を生みはしない

だから僕はこの手のひらを
探りゆくために
確かめるために
託すために 託されるために
離すために
繋ぐために

つまりは総て
磨きをかけるそのために
この手のひらを
用いよう

光をまっすぐ指差して





自由詩 原石 Copyright 千波 一也 2006-06-27 17:29:27
notebook Home 戻る