いちじくの、空
山内緋呂子

 彼は 全身を 金糸で縁取ったような人でした 
 スーツを着て 遠くから 歩いてくると 白檀の香りがするような人でした
 髪は 肩まであって お家では 私が三つ編みにしてあげていました 
 インドの僧侶が着るような オレンジ色のマントがお気に入りでした 
 
 お家の近くには いちじくの木があって 私は 初めて その香りをかぎ 
 ました
 食べたくなると 盗んだら 悪い子なので スーパーで買ってきて 二人
 で食べました
 バスで行く 遠くの公園では 長い階段を登る私を 階下から 写真に
 収め そばにいるのに 「麦わら帽の少女が遠くへ行ってしまう」と悲しそ
 うでした

 若い女性には 花束は似合わない 若さを馬鹿にしている と怒り
 私には「あなたは 少女でもあり おばあちゃんでもあるんだから ずっと
 そのままでいて」と言いました
 凍った水の表面を キレイだから と持ってこようとして 自分の部屋なの
 に壁にぶつかっていました
 私が 前の恋人と 5年も付き合っていたのを知ると 「よけい 愛しくな
 る」と言いました

 どこにいても 同じ空の下だ というのは 本当でしょうか
 私は今 彼のいる空とは 違う色の下 生きています
 


自由詩 いちじくの、空 Copyright 山内緋呂子 2003-07-26 19:59:49
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