ごみ箱を空にする
よーかん

線路の向こうを街がながれる。
中刷りを睨んでる男の前で、
女子高生はケラケラ、
大事な話にまだムチュウ。
ドアにもたれて外を眺めるあのムスメが正しい。
ボクもイヤフォンで耳を塞ぎたい。

ごみ箱を空にする。

雑音に飲まれた自分を恥じる。
線路の向こうを街がながれる。
車内アナウンスに
どこかの田舎が滲んでる。
サラリーマン達の表情が少し緩んだ気がする。
中刷り広告のオトコが咳払いした。
駅が近づく。
電車が止まる。

ごみ箱を空にする。

我さきにみなそれぞれが
荷物を抱え、財布を握り、
エスカレーターの人だかりへと。
駆け上がるスーツ姿のオジサンと
制服姿のムスメさん。
大事な話を続ける女子高生と、
咳払いのサラリーマン。
手すりにもたれて作業着姿の若者は、
俯くともなく見上げるともなく。

ごみ箱を空にする

キヲツケ姿勢のOLのスカートには
シワ一つなく染み一つない。
無表情なフクラハギとクルブシは、
優秀な成績を収めてきた印。
太いヒールと細いピアス。
後ろ髪を撥ねる。
またキヲツケをする。
このヒトの趣味はたぶん読書だ。

ごみ箱を空にする。

店に入る。
初めて見る店員にコーヒーを頼む。

すいません。
ご存知ですか。
すれ違うこの人達は、
ボクには縁のない人達で、
この駅は、日本の関東の、
東京の近くにあって、
日本は地球の上にあって、
あの人達は、
ボクとたまたまここにいて、
お金を払う。

すいません。
知ってますか。
理解できますか。
あのエスカレーターの人だかりには、
ボクとすれ違った人達はもういなくって、
エスカレーターのスピードに合わせて、
歩いたあの人達とボクも百年後にはいなくって、
千年前には地球のどこさがしてもエスカレーターなんて存在しなくて、
店員さんの名札の若葉マーク。

すいません。
知ってますか、
理解できますか。
もう少し聞いてくれませんか。
千年前にはエスカレーターなんて存在しなかったんです。
それどころか今現在、
銀河系は分からないにしても、
太陽系では、
地球以外にエスカレーターなんて存在しないんです。
コーヒーを受け取る。

若葉マークのこの店員に、
そう言ったら笑ってくれるか。
笑ってくれる可能性なんてあるのか。

笑ってくれたらいいのにな。
笑ってくれるくらいの国だったらいいのにな。

コーヒーを飲む。
タバコをふかす。

雑音を消去する。

ごみ箱を空にする。









自由詩 ごみ箱を空にする Copyright よーかん 2006-06-24 10:30:42
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