戯れ
千月 話子


男を好きになる度に
彼女の体から火薬の匂いがするの


情熱はジリジリと 
へその下から入り込んできて
体中を燃やして行くのよ
 だから いつも
骨の焼ける匂いのする
彼女の手を取って
2人して水道水の流れに
肘まで浸かる午後3時には
光りの屈折で
私の体にまで熱が伝わり
同じ気持ちになってゆく


 そのうち
熱された私の胃の中のニューデリーから
香辛料の香りがするの


夏の体は あまり好きではないから
天辺で束ねた髪を解いて
シャンプーの花の残り香で
暑苦しい匂いを覆い隠すのよ
 ただ それは
南国の花の下で食べるココナツカレーの
複雑な香りに変わっただけなのだけれど


 『濃厚な匂いのする
 インド綿のスカーフを
 私に掛けてくださるならば
 誰だって構わない
 今なら あなたを好きになるわ』


燃え尽きて横たわる
彼女のしゃくに障る爪先の
青白い親指を軽く噛んだの
 代わりに
冷たい床に広がった
私の髪を軽く引っ張られたけれど
2人して「あ 」と小さく悲鳴を上げた頃
私達の慈愛は ゆっくりと目覚めて行くのよ


手を繋いで さあ行きましょう
私達の身勝手な残骸を洗い流しに


乳白色の石鹸を繊細に泡立てて
彼女の肋骨へ重ねてゆけば
美しいドレープのように波打って
 そのうち
私の生まれ変わった胃の中のギリシャから
青い 青い 海の香りがするの
彼女は私の髪を泡立てて
「春の匂いね」と
耳元で囁いた


暖かく共鳴する私達の
楽し気な笑い声は
小さな窓から風に乗って
世界の男 世界の女へ
分け隔てなく飛んで行くのだけれど
それを どう受け止めようとも
私達には 関係ないのよ


戯れて重なって
戯れて溶けて行く
愛の世界へ

どうぞ お好きなように
    お好きなように




自由詩 戯れ Copyright 千月 話子 2006-06-22 23:24:56
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