ミキサーで作られた100%の生
狩心

都会の川で子供の変死体が発見された

それと同時刻に、屠殺場で豚が悲鳴をあげた
恐怖は肉に染み渡っていった
鶏舎で一列に並べられ管理されている鶏たちは
産み落とす卵の中に自分達の気持ちを込めた

都会に住む温かい家族の食卓には 
豚肉の生姜焼きと卵のスープが並んでいた
小さな子供達は「うまいうまい」と食べた 
子供達の笑顔を見て、両親は幸せに浸った
テレビでスペインの闘牛が放映されていた、闘牛士は見事に突き刺された
何で、あんな野蛮な事をするのかしら、子供の教育に悪いわ・・・
母親はすぐにチャンネルを変えた

母親は子供に注ぐ愛情と同じように
家の中にある観葉植物たちにも愛情を注いだ
機嫌がいい時は話し掛ける事もあった、悲しい時は寄り添ったりもした
観葉植物たちは太陽を求めて、窓の方へ茎を伸ばしていた

子供が反抗期を迎えた、夜の町に繰り出し、空ろな日々を送っていた
すれ違う人々の顔が牛に見えた、闘牛士は何処にも居なかった
巨大なビルは大きな葉を広げ、太陽を遮っていた、だからいつも夜だった

子供は家に帰らなくなった、もう歩けないと思うほど遠くまで歩いた
もう何日も食べ物を口にしていない、ついに道端に倒れこんでしまった 
何処を見ても四角い畑しかなかった、過疎化した農村だった

リアカーに乗せられた果物たちが、身を寄せ合うようにして揺れていた
いつの間にか、子供もそこに乗せられていた、子供は自分を果物たちと重ねた
「わしの息子によう似とる」
おじいさんはリアカーを引きながら、そう呟いて、嬉しそうにしていた

おじいさんの家に着くと、まな板を包丁で叩く音が聞こえた
味噌汁が運ばれてきて「どうぞ食べんしゃい」と言われたが
子供はそれを拒否して眠りについた

次の日、子供はお礼を言い、おじいさんに別れを告げた
別れ際、沢山の果物を詰め込んだ手提げ袋を渡された
おじいさんの家には、妻と子の面影だけを残したテーブルがあった

山を上っていくと牧場があった
ちんけな柵の向こう側にいる牛の親子と目が合った
子供は自分の心を通して、全ての景色を見ていた

誰もいない静かな清流に辿り着き、靴を脱いで素足を水に浸した
誰もいない事を確認してから、子供は大声で泣いた、
岩は子供を見ていた、空がゆっくりとうねり合図した 
手提げ袋が倒れ、果物が清流に浮かんだ
小魚たちが集まってきて、それを突付いた
子供は果物を1つだけ拾い上げ、口へ運んだ
涙の流れはさらに勢いを増した
その流れに巻き込まれるようにして
子供は清流と1つになった


自由詩 ミキサーで作られた100%の生 Copyright 狩心 2006-06-19 10:54:49
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