無鉄砲の銃声
蒸発王

重くなる背に
無鉄砲の銃声がこだましていた
いつまでもいつまでも

彼の銃声はこだましていた


『無鉄砲の銃声』


僕と彼は幼馴染だった
自己紹介カードの趣味の欄に
『無鉄砲』
と汚い字で書いた彼は
周りから問題児扱いされて
悪い事には
僕がその隠蔽工作人になったことだ
戦歴は辛辣を極め鮮烈に並ぶ

ブラマンジェ事件
トマト大福事変
マスカット・グリーンティーの獄
クランベリー公会議
プッチンプリン革命

数々のデザートをその無鉄砲で狙い撃ちにした彼は

いつしか
無鉄砲にモテた

でも
甘い物には慣れたもので
毎日多く貰う甘いラブレターなんて
空気の様に吸って吐いては
僕をケーキバイキングに誘った

そんな日々が続くと思ってた



さすがの彼も
本物の恋の甘さに勝てなかった


無鉄砲は鳴りをひそめて
すっぱり大人しくなった
僕は仕事が無くなって

皆は鳴かなくなった無鉄砲をなじって

其れが彼の恋人に向かう銃弾になった


ついに彼の無鉄砲の銃声が響いた


無鉄砲にも彼は飛び出し
かすり傷だったのか
全然平気そうで

無鉄砲だもの

と笑って
僕に病院までの
おんぶを命令した

そこで初めて

おぶさった彼の身体から
ひやりと冷たい血が
ずっと溢れていることが判った

背中に揺られ
笛のような呼吸をしながら
彼は
今度皆で飲もうとか
お前は胃腸が弱いから仲間はずれだとか
『彼女』の名前とか
『僕』の名前とか

数え切れない無鉄砲を撃ちはなし

僕は汗だくになって
あごから滴る液体が
汗よりずっと塩辛い事に気付かなかった


重くなっていく背中

小さくなる声に比例して


彼の最後の銃声がこだましていた


いつまでも

いつまでも

こだましていた





『無鉄砲の銃声』



自由詩 無鉄砲の銃声 Copyright 蒸発王 2006-06-18 21:35:13
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