初夏
千波 一也


初夏の陽射しは 便りを運ぶ

宛名も消印も
差出人も
見当たらないけれど
懐かしさという
こころもとない手触りに
わたしは ゆっくり目を閉じて
紫陽花のさざなみに
いだかれる



風の軌跡は たて糸よこ糸
それとは知らず
紡がれる胸 つながれる指


適度な温度の揺りかごに 浅くまどろみ
定義のさなかの
その 
夢をさすらいながら
白日の照る丘の上
的を外さぬ弓使いの 真っ直ぐな流れの
やさしい黒を
みつける


日記はいつも 草稿のまま
未完である とか
稚拙である とか
冷たい水に泳ぐ姿ではなく
むし
ゆたかな景色の
ために


日記はいつも

草稿のまま



自由詩 初夏 Copyright 千波 一也 2006-06-17 19:07:09
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