カミナリ玉
蒸発王


空気は夏色に染まり
空の青さにも透明が混じると

今年も
『カミナリ玉』
がハシリの時期になった


深緑に走る
黒い稲妻が

球体になって
八百屋に並ぶ

値段は詐欺まがいに高いけど

初物だもんね


丸ごと一個
買って行く



爺ちゃんから
寝物語で

竜神様の涙が

スイカになった事を

信じていた

爺ちゃんは
黒い稲妻の走った
その丸い涙を

『カミナリ玉』と呼んで

食べるとビリビリするぞ

と驚かされていた



思い出して
龍の鱗のような深緑に
黒く刻まれた雷模様をなぞる


すぷり と

包丁を入れ
赤い果肉の上に散らばる
涙型の種を
はらいながら


今年最初の
『カミナリ玉』を
食べる



ああ

ずいぶん

甘い涙だ




自由詩 カミナリ玉 Copyright 蒸発王 2006-06-15 23:22:02
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