フラグメンツ(リプライズ) #21〜30
大覚アキラ

#21

 毎日のように
 悪趣味な犬のイラストが描かれた
 ド派手なネクタイをしてくる男が
 あたしの勤め先にいるねん

 一昨日はブルドッグ
 昨日はポメラニアン
 今日はダックスフンド
 たぶん明日はダルメシアン

 面白半分で
 そのネクタイおもろいですねぇ
 なんて言うたもんやから
 もう大変なんよホンマに

 えらい勘違いしはって
 目が合うたびに熱視線がビシビシ
 だからそんなんちゃうねんてば
 カンベンしてえなまったくもう

 そんなワケで
 あたしも明日は犬柄でいくわ
 チャウチャウの柄よ
 このシャレが理解できるんかなぁ



#22

 手のひらサイズの
 コンパクトな憎悪

 投げつけて
 ぶつけるのには
 ぴったりです



#23

 明日が今日になる
 その瞬間に
 そっとベランダに出て
 パチン、と指を鳴らしたら
 見渡す限りの
 灯りが全部消えた
 星も月も消えて
 ほんとうの真っ暗闇に



#24

 あの有名なネコ型ロボットが
 もし本当にいるのなら
 ぼくは「もしもボックス」を
 使わせてもらいたいと思う



#25

 いいことがあると
 かならずつぎは
 わるいことがおきるの

 そんなふうに
 かんがえてしまう
 あなたを
 いいことだけで
 うめつくしてあげよう

 わるいことが
 なつかしくおもえるぐらい
 いいことばかりで



#26

 猫を飼っていました
 子どものころのことです

 真っ白でつやつやした毛並みの
 美しい雌猫は
 トロと名づけられ
 長いあいだ家族の一員として
 ぼくたちと仲良く暮らしていましたが
 ずいぶん歳をとったある日
 とつぜんいなくなりました

 きっと
 死ぬところを
 見られたくなかったんだね

 母はそういって
 ぼくをなぐさめました

 数日後の土砂降りの晩
 二階のベランダで猫の鳴き声
 開けるとそこにトロがいました
 びしょぬれの身体を拭いてやって
 その日はトロを抱いて
 いっしょに寝ました
 
 朝起きたら
 トロはまたいなくなっていました

 きっと
 お別れのあいさつを
 言いにきたんだと思いました



#27

 テコでも動かないぜ
 K−1ファイターがきても
 ヤクザに脅されても
 戦車が来ても
 きみの
 ひざまくら
 なにがなんでも死守



#28

 ひざ小僧の大きな傷痕
 カインの印だと思っていたそれは
 子どものときに転んでできた
 かさぶたの痕で
 でも
 神様に愛されてなくてもいい
 って思っているわたしにとっては
 誇らしい傷痕なんです



#29

 故郷
 というものについて考えるとき
 ぼくは
 タイムマシンのことを考える

 たとえばもし
 タイムマシンが故障して
 違う時代に行ったきり
 帰れなくなったら
 きっと
 この時代を恋しく思うだろう

 たぶん二度と戻れない
 この時代を懐かしんで
 タイムマシンの中に転がっている
 スナック菓子の開き袋の成分表示とか
 スーパーのチラシとか
 そういうものを貪るように
 何度も何度も読むだろう

 故郷
 っていうのは
 そういう感じのものなんだろう



#30

 詩とは何か?

 “詩ではないもの
  以外のすべて”

 です。


自由詩 フラグメンツ(リプライズ) #21〜30 Copyright 大覚アキラ 2006-06-14 17:31:39
notebook Home 戻る
この文書は以下の文書グループに登録されています。
フラグメンツ