虹の繋がり
海月

ハンカチ
ねぇ、ママ
どうして、私にはパパがいないの?
いつも教えてくれずに
外で遊んでおいで
と、言って頭を撫でて僕を外に出した

エプロンで涙を拭いていたのを今でも鮮明に思い出す
その度に僕はボールを思い切り投げた

ねぇ、お母さん
どうして、私にはお父さんがいないの?
いつも通りに教えてくれずに
外で遊んでおいで
と、言って背中を叩いて僕を外に出した

ハンケチ*1を目に当てて涙を流していた
その度に壁に思い切りボールを投げた
怒ってくれないと泣いてしまうから・・・
そんなことを理解してないよね
その方が良いから

ねぇ、母さん
どうして、私には父がいないの?
次の機会に教えてあげるよ
そう言って、僕に夕飯の買い物を頼んだ

買い物のメモが濡れている
やっぱり、泣いているんだね
メモにないタマネギを僕は買っていた

今夜はカレーにしなくちゃね
母さんはタマネギを切り泣いている
僕は誤魔化すために買っていたのかな?

ねぇ、母さん
いつも、父さんがいなくて寂しくなかったの?
手を強く握り締め聞いた最後の質問
寂しくなかったよ
そう言って、僕の手を握り返した

今にもこの世から消えそうなのに
父親は姿を現してくれない
無力になって壁を思い切り蹴った
哀しい咆哮が響いた

ねぇ、母さん
林檎を食べるかい?
相変わらず、父さんは姿を表さないね

いつも貴方の近くで父さんは見ているよ
食べかけの林檎を床に落として
母さんは六月の雨に消えた

医者が父親と知ったのは
母さんが最後に生きた時刻を聞いた時

口止めされていたんだ
僕の肩を叩いて部屋を出て行った

雨は止んでいて
この部屋から空に向かって
虹が架かった




*1 ハンカチ



自由詩 虹の繋がり Copyright 海月 2006-06-12 21:40:08
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