「エレベーター・ガール」
ベンジャミン

ふらり立ち寄ったデパートで
行くあてもないのにエレベーターに乗ってみた
中にはエレベーター・ガールがいて
きまり文句で言ってくる

「上へまいりますか?下へまいりますか?」
「特にきめていないのです」
「それは困ります。どちらかきめてください」
「はい。それでは上へおねがいします」
「はい。それでは上へまいります」
(ポーン)
「二階です。二階でございます。おおりになりますか?」
「おりません」
「二階は子供服売り場です。おおりになりますか?」
「僕には子供がいないのでおりません」
「はい。それでは上へまいります。上でございます」
(ポーン)
「三階です。三階でございます。おおりになりますか?」
「おりません」
「三階は紳士服売り場です。おおりになりますか?」
「着飾ることをしらないのでおりません」
「はい。それでは上へまいります。上でございます」
(ポーン)
「四階です。四階でございます。おおりになりますか?」
「おりません」
「四階は婦人服売り場です。おおりになりますか?」
「僕には服をおくる女性がいないのでおりません」
「はい。それでは上へまいります。上でございます」
(ポーン)
「五階です。五階でございます。おおりになりますか?」
「おりません」
「五階は娯楽施設です。おおりになりますか?」
「僕は真面目に生きてきただけなのでおりません」
「はい。それでは上へまいります。上でございます」
(ポーン)
「ここは屋上でございます。おおりになりますか?」
「・・・」
「ここは屋上でございます。ここより上はご案内できません。おおりになりますか?」
「・・・」
「ここからはご自分できめなければなりません。おおりになりますか?」
「・・・下へおりることはできますか?」
「ご案内した方がよろしいですか?」
「わからないのです」
「おりることはおちることとは違います。おおりになりますか?」
「よくわかりました。下へおねがいします」
「はい。それでは下へまいります。」
(ポーン)
(ポーン)
(ポーン)
(ポーン)
「地下一階です。地下一階でございます」
「どうして地下一階なのですか?」
「地下一階はレストラン街です。」
「・・・」
「上へあがることは容易ではないのです。おおりになりますか?」
「はい。おります」
「はい。ここから先は階段をお使い下さい。一段ずつ上がることが大切なこともあるのです」





(ポーン)



自由詩 「エレベーター・ガール」 Copyright ベンジャミン 2006-06-12 01:26:54
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