魔の山を下って
atsuchan69


憂いの王、ルードリッヒ二世。
芸術の森と白亜の城に棲みながら、生きる屍も同然の暮らし。
エリザベートへの生涯変わらぬ愛。そして悲恋。
ワーグナーの裏切り。
ああ、なんて残酷。なんて狂おしいことだろう。
エリザベート、なぜあなたは彼をもっと深く理解しなかったの?
威厳と誇りを捨てて、ただ彼のためになぜ共に生きなかったの?

その点、ボクはお気楽。狂おしい気持ちには、麻痺する術を心得ている。
ワーグナーよりも狡猾で裏切り者だ。
あまりにも鋭利な美と恋愛は、幸福(平凡)な人生を破滅へと導く。
ルードリッヒ。その暮らしと退廃の美。
むかしビスコンティの「神々の黄昏」を一緒に観にいった女の子、となりの席で眠っていた。
そのときは呆れたけれど、今思うとボクの方が確実にイカレていた。
美とは、たかが人間ごときものにとても窮められるようなお気軽な領域ではない。
そこは、神と悪魔の領域である。

魔の山から見下ろす下界のなんとものどかな暮らしぶり。
下町の喧騒。
いいかげんな住人達と四季の織りなす喜怒哀楽。
幼気ない子らの笑う束の間と青空。
インチキな野郎ども。
二重思考って何? 説明してあげても理解できない田舎娘。
クスリと拳銃。
売春宿。

さあ、君もボクと二等船室へ行かない?
ビール、奢るよ。
この船が沈むまえに・・・・


散文(批評随筆小説等) 魔の山を下って Copyright atsuchan69 2006-06-11 20:18:27
notebook Home