Sirens ☆
atsuchan69

ただひとり 生き延びた僕に、
残された海。
激しく、荒れ狂った夜は 引き潮に連れ去られ、
空と海とをわかつべく 曖昧な区切りは
さも穏やかに微笑んでいる。

磯際を覗くと、ウミスズメたちが 餓えたように
黒いかたまりとなって漂い 泳いでいた。
足元には 濃い紫をおびた滴型の貽貝や円錐状の甲殻類、
また、石牡丹の仲間である 濡れた紅赤の唇たちが
潮をふき、群がり棲んでいた。

まるで上質の結晶を散りばめた
豪華なジュエリーを想起させる 波の面に
反射するのは、うつくしく研磨された 
痛みすら伴う ひかり。

 水のゆらぎに移ろいながら 生まれては消え、
 まぶしく 広大にひろがる、万象のかけら

君には肢がなく からだの半分は海を領域とした
 いのち。
すなわち、翡翠のような 硬い鱗におおわれたエメラルドの肌
何処までも とおく伝わる、ことばのない声
大地にしがみつく人々への憎しみと 歌

 岩に砕かれた 船の残骸 生活者のぬけがらと 呪い

ああ、海を望めば 君が呼んでいる
 ことばのない声でうたう 神秘への誘い

 「憎むべきものは カタチ
         「憎むべきものは ことば
                 「憎むべきものは 大地。


自由詩 Sirens ☆ Copyright atsuchan69 2006-06-11 17:12:43
notebook Home