市役所の村田さん
ZUZU

お見合いしないの?
って、長いつきあいのおんな友達に聞いた。
「しないよ、どんなの来るかわかんないじゃん。」
いやなら断ればいいんじゃん。
きっとさあ、

銀縁メガネでさ。
市役所の市民課に務めている。
四十一歳でさ。
名前は村田さん。
もちろんA型さ。
四月二十九日生まれでさ。
毎年休日なんですよ、って笑うのさ。
趣味は鉄道。
休みの日は、時刻表を見るのが楽しみ。
それで、日本中を旅した気分になる。
愛車はカローラさ。

「うわ、ものすごく想像できるんだけどお。」
それでさ…

几帳面だしさ。
料理も洗濯もできます。
まじめだし、パチンコだってしないし、
煙草も吸わない。お酒は飲めない。
デートにいくとさ、
かならず車のドアを先に開けてくれるよ。
タクシーの自動ドアだって開けようとして、
ぶつかってしまうようないい人なんだ。
村田さんは。
好きな映画はジャッキー・チェンさ。

「いやだあ。ぜったいいるよ、その人!!」
う〜ん…

女のひととちゃんと付き合ったことなんて、
一度もないんだ。
でもそれを恥じてなんかいない。
ちゃんと真面目に生きてきたし、
親の面倒だって見る。
むかし一度だけ、デートした職場のひとには、
あとで笑いの種にされてしまった。
だけど、それでも、
ちゃんと空をみあげて、仕事へ行った。
身長は百七十二センチで、
体重は六十五キロ、
いたって健康だよ。

「いいひとだね、村田さん」
うん

なんだか、
適当にしゃべってたら、
ぼくとおんな友達は、
村田さんの姿がありありと浮かんできて、
なんとか、村田さんに、
いい女の人が見つかりますように、なんて、
そういう気分になってしまった。

「お見合いね。あんたこそすれば?
きっとねえ、来る女のひとはね…」
でもぼくの想像力には、
彼女のは到底及ばなかった。
こんどお茶しよう、とぼくらは長電話を切った。














自由詩 市役所の村田さん Copyright ZUZU 2006-06-11 15:23:17
notebook Home 戻る