描いた青の軌跡は
佐野権太

本当はセリカがよかった
が、人気車には、やはり手が届かなくて
中古車屋のおやじに勧められるまま
同じエンジンだというコロナにした
家に帰ってよく見ると
左のドアが少しへこんでいた

―――ドライブしよう

さりげなく誘うと
君は驚いて
同じエンジンだと胸を張ると
大げさに喜んでくれた
セリカがいい
と、最初に言いだしたのは
確か、君の方だった
のに

ふたりの新しい空間は
こじんまりしていて
君の吐息をやたら近く感じて
前ばかり向いて
アクセルを踏んだ


―――セリカよりも速く

公園の駐車場
スローバラード
長い睫毛がまばたくような
ハザードの、明、滅
オレンジに、浮かび、沈む
君が静かにもたれて
雨上がりを深く、吸い込んだ



漏れるラジエーター液の黄緑
オイルの焼けた匂い
通り過ぎるいくつもの
無関心なヘッドライト

―――何てことないさ

強がって、助けを待ち続けた


譲り合う、ジャンパー
譲らない、しりとり

―――こあら、らっこ、こあら、らっこ

ポケットの中の
凍える手を握りしめ
ガチガチ笑った

帰れないふたり
路地裏の旅館
宿帳に同じ名字を並べ
クスクスと小突きあった
塗り壁に背をあずけ
ボロボロと剥がれ落ちるラメを
ただ、見つめていた
君の舌が熱く、熱く絡まって
溶けていった



青いハイ・ウェイ
速すぎた車輪
若すぎた軌跡
どこまでも行けた
どこまでも行けるはずだった
ゆっくり歩くなんてこと
できやしなかった
僕ら

かすれた声で
―――セリカ
と、つぶやけば
君が小さく
うなずいた気がして


自由詩 描いた青の軌跡は Copyright 佐野権太 2006-06-11 14:33:10
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