描いた青の軌跡は
佐野権太
本当はセリカがよかった
が、人気車には、やはり手が届かなくて
中古車屋のおやじに勧められるまま
同じエンジンだというコロナにした
家に帰ってよく見ると
左のドアが少しへこんでいた
―――ドライブしよう
さりげなく誘うと
君は驚いて
同じエンジンだと胸を張ると
大げさに喜んでくれた
セリカがいい
と、最初に言いだしたのは
確か、君の方だった
のに
ふたりの新しい空間は
こじんまりしていて
君の吐息をやたら近く感じて
前ばかり向いて
アクセルを踏んだ
夏
―――セリカよりも速く
公園の駐車場
スローバラード
長い睫毛がまばたくような
ハザードの、明、滅
オレンジに、浮かび、沈む
君が静かにもたれて
雨上がりを深く、吸い込んだ
夜
漏れるラジエーター液の黄緑
オイルの焼けた匂い
通り過ぎるいくつもの
無関心なヘッドライト
―――何てことないさ
強がって、助けを待ち続けた
冬
譲り合う、ジャンパー
譲らない、しりとり
―――こあら、らっこ、こあら、らっこ
ポケットの中の
凍える手を握りしめ
ガチガチ笑った
帰れないふたり
路地裏の旅館
宿帳に同じ名字を並べ
クスクスと小突きあった
塗り壁に背をあずけ
ボロボロと剥がれ落ちるラメを
ただ、見つめていた
君の舌が熱く、熱く絡まって
溶けていった
夜
青いハイ・ウェイ
速すぎた車輪
若すぎた軌跡
どこまでも行けた
どこまでも行けるはずだった
ゆっくり歩くなんてこと
できやしなかった
僕ら
かすれた声で
―――セリカ
と、つぶやけば
君が小さく
頷いた気がして