島の自由のひとりのわたしの誰?
黒川排除 (oldsoup)

冷たくして固めた水を氷と呼ばないまま二年が過ぎようとしている無人島で筏を作っては流していた
ある朝砂浜の砂が舞い上がったと思ったら濯がれていてまるでコップの底のようであった砂浜が当然砂浜であり続ける限り砂浜を掘り続ける限り筆記を夢見ていたからもしかすると今も夢を見ているのではないかと目もろくに
閉じていない。迎合は常に罪であり続け無人島は常に雨であり続け海岸線は行ったり来たりしていた、そもそも海岸線と呼んでそれが正しくなるのかどうか
わたしは知らない。
わたしは知らない何も。ここへやってきたこともここにいることもここで農作業をしてその頃は無人島ではなかったことも無人島であるためにはわたしを排除しなければならない言葉の意思めいたものを感じ取る
思い込みも従って思い込むごとに海岸線が著しく心臓へ向かっていくことも、
心臓と言えばこの島の中にどれだけの心臓が残っているか知らないがとにかく人間の心臓を目指していることも
鳥の鼓膜に同期しかつて震えていた小動物を床と呼ぶからダンスをすることは別に異常なことではないと農具をしまいながら農具のしまってある小屋の床と呼ばれる小動物の上で激しく踊ってみせる友人であったかもしれない記憶も定かではないが。失策は潰えた農具の誕生にあった。具と呼べというのだ。それを
具と呼べというのだそれを具と
呼べと。一心不乱にえがかれた絵。その中に配置された不在通知の手垢を影として飛ぶ人間を伏せ字のように失われた発音で、
確かに商標の取り付けられた旗は列をなしながら山の方へ向かっていったがそれらがすべてそのようにしていたとしたら、使われていない廃村の水道の前で永遠に手をこすり続けることも影を踏みつけることも鳥を捕まえて焼くことも焼き鳥を食うこともそれらを貫く串を作ることもすべては墓を作ることに繋がっているのだ
として、霊魂が波間に揺れているのを傍観しながら空いている手を掻き集めひとつの墓を作ることもやぶさかではない
極寒の地でかつてそうしてきたことを今更実践することもやぶさかではない。
あたたかな光を指の間に誘い込み握ると冷たい体にも幾分地熱の夥しい嘆きが螺旋を拒みながら層状に押し寄せる音波の、成長の軋みの拡張の構造の一点の空白の時代の憶測の配線の固形のまなざしのあるべきままの境界の寸断の原因の僻地の悪臭の色相の濃淡の空中の視角範囲内の慌ただしさをただ指の間に粘着させるがごとく
想起せよ喚起せよ列挙せよ軽々しく歌え軽々しく死ね軽々しく死に至るなどと言え
ぬ、ラジオ放送を聴かせながらとうの昔に滅びて切り株になった手は一体何を思うだろう、
ぬ、からめとる虫たちを分解するのは想像の中で容易い要領を得て手術室のランプは消えなかった
ぬ、過去と現実を一枚の画用紙から切り出した時から生活が色を帯びだして思い出した、
ぬ、大いなる旅の途中などという抽象的な表現の中でどれだけじぶんの足跡を見つめじぶんの足跡が砂浜や水面や過去には水面であったものをへこましているかを見つめあるいは計測しその深さを基準とする単位を考え単位に気取った名前をつけ森の中でいもしない仲間を威嚇するための雄叫びに使ったことだろうか。おぼえていないことをも
縷々として誰も切る術を知らない意図に擬態した蛇の腹を嫌悪する夜空に移し替え雨というのはなんと美味しいのであろうとか、
大自然が昏睡を誘う時ならば大自然に対して局部麻酔を施すべく膝を折りけたたましく笑うことも気高いと名付ける日傘の下で太陽の部分に穴をあけて星空を見上げている時の空しさであるとか。聞き及んでいる。矛盾した劣化のためにたとえば石人の、
誰がわたしのことを言えと言った誰がわたしなのだ誰に対している誰かもしくは何かのための慰めに近い夜にしてみれば光を放射して影だよと言うようなそんな白状をどうしてわたしに今求めた多重の論拠があるとしてどうして訪れたわたし考えるわたし静かに胸のあたりで両手を組み合わせるわたし濁るわたし浮かぶわたしわたしの胴体が丸である四角である角度へ移動するしかし誰がこの無人島の中で誰がわたしのわたしである隠れ家に干渉する時期ではない新緑が生い茂るその一枚一枚すべて幼虫に与えてやれという遺言だ前任者の廃村の電気の通っていない街灯めいた削られた倒木の傷跡は残虐ではない残念である残っているのがわたしが残っているのが教えてくれたのが教鞭や本物の鞭を振るったのが鞭ではなく蔓であった巨大食虫植物が滝の水分に引き寄せられて生育の子供たちであろうが人間とは無縁でありたがる存在としてのわたしの環境に緑と緑でない透明をぶちまけて帰るのでなければ誰がわたしのことを言えと言ったのだ、
この狭い部屋の中の他の誰が誰が誰かが誰だ誰が誰が誰かが所有する瓶詰めの筏をわたしは美しいとは思わない。


自由詩 島の自由のひとりのわたしの誰? Copyright 黒川排除 (oldsoup) 2006-06-10 01:32:55
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