蛙の子

哀れで愚かな 魔物が恋をした。
醜く恐ろしい 嫌われ者の魔物が恋をした。

美しい姫君に恋をした。
心優しく気高い 姫君に恋をした。

決して許されぬ恋と分かっていても
この想いだけは隠し切れぬと
毎夜魔物は姫に会いに行く。
誰にも気付かれてはならぬと
ひっそり会いに行く。

「此処で見ていれるだけで幸せだ。」

最初は魔物もそう思っていたさ。
けれども姫を見るたびに 
更なる欲を募らせる。

話したい 触れたい 愛したい 愛してほしい

身分違いと分かれども
この想い抑えきれるのなら 
疾うにそうしていたはずだ。

会いに行くのを止められなかったのは 
この醜い気持ちが
この愚かな気持ちが

どこかで何かを期待していたのさ。

姫が愛してくれると どこかで期待していたからさ。

だから魔物は会いに行った。
ひっそりひっそり 会いに行った。

不安で 心を握りつぶされ
期待で 心躍らせて
愛する姫君に会いに行く。

張り裂けそうな想いを伝える為に。

魔物は扉に手をかける。


小さな「吼」が闇夜に消える。



それから魔物がどうなったのか

それは誰にも分からない。


自由詩Copyright 蛙の子 2006-06-09 23:10:05
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