午後の名前
木立 悟
窓と壁のはざまから
水のような顔があふれ
外を見もせず消えてゆく
風が光に 光が風に
裏切りの等価を与えるとき
狭いところ
熱いところ
いたらぬ波をくりかえす舌
輪の上に乗り
野火を馳せる
風が鏡を曲げてゆく
光は落ちて地を嗤う
どこまでも吠える暗がりよ
許せぬものを
どこまでもどこまでも許さぬものよ
銀の物神が矢印に逆らい
無数に分かれる透明な手となり
重なるところ
たなびくところ
ひとつになろうと手まねくところ
忘れられた偉人の道
水を負う光が通り
眠りかけた衣をすべり
行方知れず その名を
手の甲の空に書き加える