夏至点
落合朱美


真昼の公園で木漏れ陽を浴びて 
癒える筈のない悲しみのことを考えていた 
ときおり吹き抜ける風はすこし熱を帯びて
客待ち顔のアイスクリーム売りの老婆の 
麦藁帽子を踊るように撫でてゆく 

あの日 
あの人の瞳の奥に映った淋しい翳のこと 
最期に握った手の力の強さ
渾身の力をこめた指先が紫色に震えていたこと
握られた手首には指の痕が残っていたことを
泡沫のように思い出しては仕舞いこむ

太陽はいちばん高いところで穏やかに微笑み
砂場の子供たちは無防備に手を伸ばす
爪の中まで泥に塗れても
その手は穢れることをまだ知らない

アイスクリーム売りの老婆が
二色のアイスを薔薇の花弁の形に盛り付け
子供たちから歓声があがる
その器用な指先は永い苦労の末の安穏を物語り
穢れをどこかで拭い去ってしまったように見えた

人というものはきっと
無色に生まれてしだいに色づき
そしてまた無色に還るものなのだ
それは色褪せるのではなくて
澄んでゆくものなのだろう

あの日
振り返れば堂々巡りの人生だったと
呟いたあと目を閉じたあの人は
けれど太陽の描く輪の中で護られて
いつかまた無垢な生命で生まれ変わる

私もやがて
同じように澄んでゆくのだろう





自由詩 夏至点 Copyright 落合朱美 2006-06-08 22:28:30縦
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