かたいくちびる
モーヌ。



国境には まだ 霜が 降りて いた

ぼくは ひとさしゆびを かかげて

空 いっぱいに 伸ばした

虚空の なか 水の 夜明けの アラベスク

四十雀しじゅうからが まどろみを そっと たたいて

来たものを 告げて うたった

ピアニッシモの 音いろは やさし かった

ばらいろに 焼かれて ゆく ものたちを 放擲して

消え去る 運命を たずね ながら

燃えて 生きるものが 身を 尽くしても

亡くなったりは しないよ と

素足で 地を ふみだして いった





季節よ... ぼくは ばらの園 を さまよった

ばらの なかの 風... ばらの なかの うた...

ばらの 小鳥... ばらの 少年... ばらの 草原...

そして ばらは 旅人...

ぼくが ともしびに なろうとする 地を

やしなう ように 旅を する

虚空の なかの 花影を めぐり めぐりて

手くびに 羽根の 赤い リボン ( それは )

雪の 白い リボン ( 伸びて )

雲の 黒い リボン ( 吹き ながせ )





つばめが 飛んで 行った... ( きみは のどが 赤い )

燃え 尽きる ところ

春が 成熟 して ゆく ところの 夏へ

移ろいを きしみ ながら

きしんで ゆく きみの かたい くちびるに 書きつけた

千の 蝶が 群れ 飛ぶ なかで

朗読 される 詩を

複数の 響きを 秘めている ぬぐわれた ひとつの 音へ と

とぎすまされて 均れながら 馳せて 流れる

どこまでも 蝶が 描いた 空路を 聞こえて ゆき

そのあとに 天空から 星たちの声と 聞こえて くる...

とおく 国境の 水かがみに

うつった ばらが ほほえんで いた











自由詩 かたいくちびる Copyright モーヌ。 2006-06-07 14:48:37
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