今を生きる、ということについて。
大覚アキラ

当然ながら、人は未来を生きることはできない。
今、この瞬間を生きることしかできない。
にもかかわらず、人は皆、過去に縛られている。
それどころか、過去を生きているかのように見える人さえいる。
今という瞬間に存在していながら、
まるで魂は過去のある時点に置いてきたままのような。

人が、今この瞬間に立脚し、
常にリアルタイムで自分自身を、
そして今という瞬間を更新し続けながらも、
同時にまた自分自身であり続けていられるのは、
人が記憶に拠って今を生きているからだ。
記憶を拠り所にし、それを艫綱として今この瞬間に立っているからだ。

過去があるからこそ記憶は存在し得るし、
記憶喪失にでもならない限り
過去を捨て去ってしまうことは不可能だ。
しかし、魂を過去に縛られたまま、過去を生きていてはいけない。
いつまでもサーバ上の過去のキャッシュを参照しているような、
そんな場所からは、脱出しなくてはいけない。

過去を、記憶を、踏みしめ、それを踏み越えて、
今この瞬間に立っている自分自身を
更新し続けていかなくてはならないのだ。
そうすることこそが、きっと、
自分を自分自身たらしめている過去と記憶に向けての
最良の餞であり、もっとも美しい生き方なのではないだろうか。


散文(批評随筆小説等) 今を生きる、ということについて。 Copyright 大覚アキラ 2006-06-07 11:56:30
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