荒野
杉菜 晃

 




 荒野に月が照って
 幽冥界のように
 ぼんやり明るんでいる

 そこを夥しい生きものたちの霊が
 一列になって行進していく

 かさりとも音はなく
 びゅうびゅうと風ばかりが
 視野の中を吹き抜けている

 彼ら霊たちは
 連帯しているようでいて
 一つにまとまっているのでもなく
 ばらばらかというと
 ある連携の中に
 身をおいている
 語らうでもなく
 従うでもなく 
 統率するものがいるのでもない

 私が見ているこの風景は
 一体何の原形であろうか
 それすら不分明のままに
 霞みに霞んで
 一列になって通り過ぎていく

 ああ いってしまうものたち
 生きたまま彼方へと渡されているものたち
 そこまでは何とか届いても
 その先はもう冥界 晦冥にして
 私人の想像の及ぶところではない

 嗚呼 ああ 
 かかる吾らが慨嘆を
 代弁しているのだろうか
 寓居に近く頻き啼く鴉
 風が吹いている
 びゅうびゅうと耳朶を擦って
 風が吹いている



自由詩 荒野 Copyright 杉菜 晃 2006-06-06 00:20:27
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