葛西佑也過去作品集①
葛西佑也

以前、現代詩フォーラムに投稿していたものの中から、自分が残したいものやお気に入りの作品を載せていきたいとおもいます。今回は、俊読で朗読した三作品。



ある夕暮れ

ある意味では夕暮れだったでしょう。
コンビニの陳列棚から、
世界の光が漏れていた、
ここぞとばかりに主張。

あるいは、
最愛の人に、
「あいしています」
と伝えることの難しさ、
を喩えた夕暮れ。

ある夕暮れの訪れが、
僕らの世界のパラレルを崩して、
いづれ僕らも感知。

ある意味では夕暮れだったでしょう。
図書館の本棚から、
世界の光が漏れていた、
ここぞとばかりに主張。

あるいは、
最愛の人に、
「あいしています」
と伝えることの難しさ、
を喩えた夕暮れ。


ある夕暮れの訪れが、
僕らの世界のリアルを崩して、
いづれ僕らも感知。



世界の中央教会から、
「あいしています」の、
アナウンスが響く夕暮れ。


ある夕暮れは、
もう来ない。



通学路とメロンパン


不安が背中に生えている
メロンパンを食べながら
本当はメロンを食べてるんじゃないか
そんな不安

学校をサボった朝に
世界の通学路の無意味がポロポロと
胸を流れてメロンパンを握りつぶした

甘い香りが付いてしまった手のひらを
ゴシゴシと洗う音だけが
世界の通学路に響いて

指先に鈍い痛みがはしり
涙がポロポロと頬を流れて
潰れたメロンパンを湿らせた

指先の痛みは
世界の通学路の無意味を
しつこいくらいに象徴して
生きている実感を
絶望に喩えた

もう三日間何も食べずに
ただメロンパンを潰して
湿らせてきた

世界の通学路に
自分の存在を
確かめられずにいた

不安が背中に生えている
メロンパンを食べながら
本当はメロンを食べてるんじゃないか
そんな不安

本当は何も食べていなかった
安っぽい不安だった


少しお腹がすいたので
僕は一口
潰れて湿ったメロンパンを食べます




「さすらいの旅人」


「こんとん」という言葉で
ひとくくりにされてしまったこの世界に
私の居場所は無い

ある国では
私は一枚のテーブルクロスだった
内戦で両親を失った少女は
その悲しみを湛えた目で
見えもしない未来を見ながら
私を洗濯してくれた
その家にはテーブルがなかった


ある国では
私は錆びてしまったスプーンだった
栄養失調の少年が
異様に膨らんだ腹を突き出して
私をいかにも大切そうに握ってくれた
その危うさを私は全身で理解した
久々の食糧配給に少年は私を放り投げ
まるで動物のようにむさぼりついた


ある国では
私は裕福な家の少女のぬいぐるみだった
たくさんある少女のコレクションの一つだったが
いつも綺麗にしてもらえて
それなりに幸せだった
少女の両親は忙しくて
家にいることは稀だった
少女はいつも寂しそうに
私を恨めしそうな目で見つめるのだった
私はすぐに家出した

ある国では
私は寂びれた村の教会の鐘だった
ただ月日だけが流れ
私が鳴ることはなかった
戦争が始まった日
私は避難警報の代わりを務めた
村の人は皆
我先に我先にと逃げてしまい
私はひとり取り残された


「こんとん」という言葉で
ひとくくりにされてしまったこの世界に
私の居場所は無い


だが
私は平和を祈ることをやめない

そう
私は忘れないある国の記憶を。


未詩・独白 葛西佑也過去作品集① Copyright 葛西佑也 2006-06-05 09:17:59
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