今朝、影になる。
葛西佑也

ぼくは生れた時から、
夜にまぎれる術、を、
知っているの。
多くの人たちが、
何事もなかったかの
ように、通り過ぎて
行く。夜道を、
たった一人で歩いて
行けるの。

たくさんの恋人たちが
死んでいったの、夜道。

ずっと、あこがれて
いた。マンホールの下
世界。
今、
太陽があるのか ないのか
も、わからず 
怯えているわ。
そう、影がないの。

気がつけば
一人になっている、ぼく
は。
マンホールから、
あふれ出しそうな
かわいた吐息に、
つつまれながら、
いくつも乗り越えて
きたの。
妊婦のおなか。

そう、そうなの。
夜道に転がっていた。
いくつもの、それ。
ぼくが、影だったころ、
その中の一つから、
産声をあげたの。
ぼく。

気がつけ、ば。
外は 朝で、
ぼくは道の上、
影になっていた
の。


自由詩 今朝、影になる。 Copyright 葛西佑也 2006-06-04 21:44:21
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