「窓」
服部 剛
私は無人の都市を歩いていた
見上げた無数の窓の一つから
青い小鳥が堕ちて来た
掌で受け止めた
痙攣する小鳥の青い羽は
灰色へと変色し
頭を垂らし 息絶えた
呟きかけた鳴き声を
掌に残して
*
( 私の心の開いた窓から
( 飛翔する青い小鳥の亡霊は
( 暗天の空へ
( 空から地上を見下ろす
( 杖を突いた老婆が独り
( 雲の上まで昇る果てない階段を
( ゆっくり 一段ずつ 上っていた
( 無人の都市を彷徨う青年は
( 降り始めた無数に光る雨糸を眺め
( 雨宿りをしていた少女と出逢い
( 人知れぬ部屋で
( ずぶ濡れの服を脱いで
( 互いの寂しい肌を暖め合っていた
ふたりが窓を開けると
雨上がりの夜に
ある
叫びを閉じ込めた
濡れた黒い石が独つ
宙に浮かんでいた
石には
杖を突く老婆の姿が刻まれ
金色の線が滲んでいた
*
私は夜の無人都市を歩いていた
見上げた暗闇の窓の一つヘ
青い小鳥が入って行った