青空の歌
明日殻笑子

見慣れた図書室の窓際の
むこうに描く景色は今日も
砂埃のようにきみの魂を舞いあがらせる

あの夏の夜
冷たい暑さに痺れた頭で
青空の歌を歌ったぼくを笑いとばしたきみが
寝ころんだ芝の若草で
手首が切れればと思っていたなんて
飼い犬に向けて吹いた笛のような
強くか細い どしゃぶりの悲鳴

急行列車からトランス電波
理科室 保健室 体育倉庫で見つけた縄跳び
晴れてかわいた放課後の屋上は
青く皮肉なほどにぼくの歌を思い出しては
足のすべる柵だと 頬杖をついて息をしていた

ねえあの日
何がきみをつきとばして
何が跳び箱を片付けわすれて
何があの柵を錆びつかせて
きみのいた夏を終わらせたのだろう
ぼくはわかろうと思う
夕暮れに焼けついた影おくり

だから 走る はしる 風の色を見る
ぼくを見るかなしそうなきみの飼い犬
走る つまづく 転んでも息がきれても
差し出されぬ腕にはじめて涙こぼれた

ねえいまも
朝は急行に詰めこまれるし
五段もとべなくてからかわれるし
赤さびを口ずさむ日々だけれど
季節は何も言わず通りすぎて行く
ぼくもかわろうと思う
夜明けをまぶしく感じられるこの心

ねえ
どこか高い所から
描かれるこの景色をきみも見ているの
振り返る度にいつも見上げては
あの日のように笑いとばして歌う青空の歌


自由詩 青空の歌 Copyright 明日殻笑子 2006-06-03 01:54:32
notebook Home