飛べ
松本 卓也

車載時計は21時半を過ぎて
人気などあるはずもなく
風が木々に囁く声さえ聞こえない

料金所を越え
長いトンネルに入り
アクセルを踏みしめ

車間距離を示す標識が
歪んで千切れるのが見えた時
視界が拡散し
音が破裂して

咆えた

意味の紡がれない声に
多分 悲嘆を込めて
多分 憤怒を込めて
そして多分 懺悔を込めて

震えた空気が山を
生温い隙間風が僕を
無造作に引き裂いて

このまま遠く
このまま高く
このまま何処かへ

壊れたガードレールが
ジャンプ台に見えて

耐え難い自分である為に
人をどれだけ傷つけてきたのか
刹那の慰めが訪れた後に
一つくらい誇れるものが残ったのか

咆えて (何を手にした?)
吼えて (何を失った?)
吠えて (何が残った?)

深緑の隙間に見える闇が
巨大な掌を広げ

それは受容か
それは拒絶か


自由詩 飛べ Copyright 松本 卓也 2006-05-30 00:12:14
notebook Home 戻る