朝起きて無題
たもつ

 *

朝起きて色を塗る
テーブルの上にある
野菜ジュースの中を
遠くまで行くことは
とても難しい

 *

虹を壊し
虹に壊されながら
走る子どもたちの足音が
回覧板でまわされる
狭い地面では金平糖に
夏のアリが集まり始める

 *

傘の話を
と言って傘の話をする人
口から次々と傘が出てくる
言葉で
とお願いする
忘れてしまったのです
また傘が出てくる

 *

朝起きると無題だった
父と母はすでに
エレベーターに乗っている
板橋区からお来しの
という案内が流れ
返事はまた繰り返される
屋上が壊れて久しい

 *

本に支障をきたしたので
それはもう本ではない
ページは断崖の形となり
かつて本であったものは
自らの中に身投げをする
けれど羽の形ばかりが
空に飛んでいってしまう

 *

体育館の薄皮をむく
そのための目がある
うち上げられた無数のヒグラシの亡骸に
薄く陽光があたっている
かなな
かようにして
耳は海へと続く

 *

眼鏡の匂いを思い出す日がある
まだ眼鏡などかけたことないのに
朝起きて触れるものに触る
それから呼吸の真似をしてみる
うまくなったね
大人にほめられた日が
かつてあった

 *




自由詩 朝起きて無題 Copyright たもつ 2006-05-23 14:58:46
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