「自画像」
服部 剛
誰かと笑い転げる日々を過ごす私
仮面を一枚捲れば
誰の手も触れ得ぬ「もう一人の私」がいる
あたりまえの幸福は
いつも手の届く場所にあり
浜辺へ下りる石段にぽつんと座り
夕暮れの波打ち際
手を繋いで遠ざかる恋人の二人に
瞳を細めている
手を伸ばせば届きそうな幸福と
潮騒に包まれて暮れゆく浜辺で一人佇む私との間に
いつも深い影の溝があり
夜の海をみつめる私の背後で何者かが囁く
うっすらと宙に浮かぶ額縁の中から
寂しい微笑の男が少し口を開くと零れる言霊
海風に運ばれ
潮騒の闇に消える