赤い蕾
紫乃


  春の嵐に桜の散った頃
  赤い蕾は静やかに開く

  鳥も獣も虫も人もみな
  雨を避けて震えている

  赤く匂い立つ蕾は
  濡れそぼった灰色の
  凍えた大気のなかで
  熱い吐息を漏らしている

  その熱い吐息は
  朝靄のうちに溶けゆき
  陽光にまぎれ
  凍えた大気を赤く染めるのだ
  静かに

  そうして
  雨のあがる朝
  闇夜の拡散する頃に
  他の蕾たちは静かに開きはじめる

  赤い花弁は
  そっと
  散るのだった


自由詩 赤い蕾 Copyright 紫乃 2006-05-20 21:35:52
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