きずな(母の日に思いを寄せて)
恋月 ぴの

それは言葉にならない思いであった
母は母であった
息子は息子であった
いずれは離れ離れになる定めだった
『ふたりは生き別れる』
それは別段、不幸なことでもなく
いつまでも悔恨に捕らわれることでもない
雨が降れば傘を差し
雨が止めば傘を閉じ
何処かに置き忘れた一本の傘の様に
別れは当然にして訪れるだけだ
『ふたりは死に別れる』
どちらが先に死のうとも
それは別段、不幸なことでもなく
いつまでも悲嘆に暮れることでもない
全てのものは海より出でて
全てのものは海へと還る
明けの浜辺で見かける一体の屍の様に
死は当然にして訪れるだけだ
それは言葉にならない思いであった
母は母であった
息子は息子であった
一両の黒い貨車が原野を駆け抜けて行く
貨車には母と息子が乗っていた
薄暗い天井で電球ひとつ震えていた
屋根で風車がカラカラ音を立てていた
レールの継ぎ目がゴトンと鳴って
何処までも雨雲が重く立ち込めていた



自由詩 きずな(母の日に思いを寄せて) Copyright 恋月 ぴの 2006-05-14 05:42:46
notebook Home 戻る