夜色をした猫と眠る少女の
夕凪ここあ

少女が、朝起きだして
足もとで夜の色をした猫の背を撫でる
まだ体温もあがらない内に
手のひらに忍び込む温もりに少し汗ばむ

私の温度ではない、と気づかないまま
薄いカーテンの裾を引く 細く伸びた腕

窓の外で今日、は呼吸するたび削られていく
少女は大人と呼ぶには幼いが
明日に触れない程度の未熟だが丁度いい速さで。

それでも少女の細い腕は
少し薄暗い部屋で、

夜色をした猫が
窓枠ひとつでせかいと切り取られた少女の腕に尻尾を優しく纏わせて

ちりん、と澄んだ鈴の音にも
気づかないくらい澄んだ瞳をした少女は
窓越しに朝を唄いに来た小さな鳥を眺めて

猫は軽やかに体をせかいに忍ばせて、
あの鳥の戯れの方へと行ってしまった

少女は
もうその先を追いかけることなく
猫が通れる分だけせかいとの繋がりを残して

ひとつ、目を閉じた

見ようとしなかったその間に
今日という日に取り残されて、昨日の残り香に触れてしまった
ことを知らない少女が寝ている隙に
戻って来た夜色の猫が

病的な少女の青白い首筋を
小さな舌先でおいしそうに舐めるものだから、


自由詩 夜色をした猫と眠る少女の Copyright 夕凪ここあ 2006-05-13 01:31:10
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