ろくでなしの詩
恋月 ぴの

鉢植えの花が咲いていた
色とりどりの花々が咲いていた
しかし どいつもこいつも嘘っぱちに思えて
可憐な花びらをえいっとばかりにつねってやった
花の香りに誘われて蜜蜂が飛んできた
蜜蜂が耳の周りをぶんぶん飛んだ
頭の中をうるさいくらいに飛び回った
《跳びます
《飛びます
わたしには跳べなかった
薄暗い体育館の片隅で挑んだ
もうひとつの人生と言う名の跳び箱
踏切板の硬さに負けて
頑なな世間の冷たさに負けて跳べなかった
幾度か繰返してはみたものの
うまく着地出来なかった
安らぎと言う名の着地点に
《跳びます
《飛びます
「無理して飛ばなくとも良いのだ」
荒れ地を拓く手を休め あのひとは言った
赤土にまみれた大きくて厚い爪だった
首にかけたタオルで額の汗を拭った
(土着してみなよ
(明日を耕せば判るさ
けれど わたしには拓くべく荒れ地など無かった
耕すべき明日など無かった
せめて 鉢植えに咲く嘘っぱちの花となり
あなたにつねられるのを
今か今かと待っていよう
身悶えしながら待っていよう
何処からか蜜蜂が飛んできた
耳の周りをぶんぶん飛んでいた
頭の中をうるさいくらいに飛び回っていた


自由詩 ろくでなしの詩 Copyright 恋月 ぴの 2006-05-12 06:45:32
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