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松本 卓也
想像していたより
ずっと簡単だった
左手を少し動かして
アドレス帳から
君の名を削除して
メールボックスを開き
暗証番号を入れて
フォルダごと消去して
目頭が少し熱い
涙は流さないと決めた
だから耐えていられる
鏡は見ないようにして
データが消えても
気持が消えるまで
どれくらいの後悔と
戦わなきゃならんかな
これから少しずつ
蓄積する孤独が
破裂してしまう前に
思い出の証が
心から消え去るまで
君の存在が掻き消えた
液晶を見つめるのだろう
そこに何も無いと
知っていながら
開いたり閉じたりを
繰り返すのだろう