吊られた葉っぱ
加藤泰清


回転 回転 踊れ踊れと息を吹く



息音の短さに 驚いた 驚いた



回転 回転 どうやらロープが喰い込んで



今夜中に散りそうもない






五月八日 晴れ
デパートのトイレに駆け込んだ。一辺の個室でから、からから、から、と紙を巻き取る音、隣りから屁が木霊する。彼は私の穴と云う穴を犯す。から、からから、から。私は木壁を殴った人だ。隣りのドアがだんと開いた。から、からから、からもう紙がない。替えがどこにも置いてない。私は便座に身を投げた。海よりも深く沈んだ体よ。アンモニアの香りが鼻を刺すので、妙に恐縮してしまう、だふうとしたことが、恐れているのか。途端にドアがだんと、折れてしまった。驚愕に支配された状況に愕然としていると、幾千の人数の目玉が開ききったドアから覗いている。そのまま私の胸倉は掴まれてしまった。その腕を一瞥し、愚か者が! と一喝すると、私の脳味噌の辺りが暗転した。私は勝利した。五月七日 晴れ ありがたくも私は受験勉強に没頭することが出来た。安住に富んだ、洋館の隅の一室、頭を殴られる。腫れあがった頭蓋を指差し、笑う。命がとても、とても澄んで、いるのです。あれは受験生の召喚するような内容ではなかった。そこに一つ響く鍵の音、かちゃ。丁度よくおかずを手に、かけずれる。面会は謝絶の札を掛けてもらうよう、扉の向こう側の人に頼んだ。彼女は赤の他人だろうと信じた。その事実が餡美の音響が、よりいっそう、蜃気楼が私を好かんとしてくれている。豪儀だ。たった数時間の出来事の中で勉強する暇あると申すか。五月六日 晴れ 彼の彼女がわしを好いてくれようと、いくらも無意味なことだ。わしがその真意を信じられなければなにも変わらない。私のそっと爪先の一箇所を、聡子はぺろ、と舐めた。「その内結婚しよう」私は軽蔑しきった目で、力強く聡子を見つめた。聡子は舐めている。手元に落っこちていたガーターベルトをそっと拾ったことを(蛆虫を潰さぬように摘まむような指で)、彼女は果たして識っているだろうか。ブラジャーはH70。そこで乱暴に彼女の口にビンを詰めこんだ。喋らせない事を強いる。それだけで股間から脳髄に掛けて痺れが生じる快感を得られた。聡子とセックスに至る時も、果たしてそうだろうか。勿論そのビンはゴミ箱から漁ってきたものだ。偶然にも私の所業を蔑んだ看護婦もどきを、私は山へ連れ込んでいた。その数は四名に及ぶ。私は両顎でそっと優しく包まれたビンをはんまあで叩き割った。それ以来聡子と口を交わさない。四時間前から。
五月 一日     いつまでも晴れるや
幼き頃からの知り合いの聡子は、照準を合わせた。門の横には梯子が掛かっていて、二階からは(二階と呼ぶべきだ、と聡子に教えられたので、癪だから聡子の爪を剥いだ)辺り一面の草原が見渡せる。十字架に加工された墓石が青い草原を埋めつくしている。二階から小便を撒き散らすと、聖水、聖水、と聡子が喜んで口にする液体と、私の唯一の天敵である太陽光とが複雑に交わされ、彼らはあたかも虹を引き起こした。晴れるや。私は「人権」について、その場で演説した。「人権とは弱者の為にあるんだああああ。だからお前らは何してもいいよ」人々は間抜け声、だと嘲笑した。絶対にした。私は聖水を、ちょろ、と撒いた。散っていく人々を尻目に、虹は申し訳なさげに隣山へ渡った。聡子が飛び降りた。幸い怪我はなかった。私以外が聡子を傷つけることを私は許さない。五月一日晴れ <Nowadays>

3・タキシードを
  最終証明の為
  儀式に使う
 2・深く突き刺した
   この望む所の位置で
   手招きしている
  1・いずれにせよ
    とびこむのだよ!
    てっぺんとう とう とう と とう なんぞや

この文(あほう)章に意味は無く、やがてはかすれるばかりだ。


 蜻蛉の目玉を
 弾き飛ばす少年に
 昔の私の面影を見た
 懐かしくなり
 質問した
 ”なぜそんなことをするの?”
 (これは私そのものに対する質問でもあるのだ)

すると彼は
わるい? と、ただ悪戯っぽく笑うのだ。
その時 僕が彼に恋することを
君は疑うのか?


 五月一日 雨やむのら いつまで経っても明日に移行する気配が無い。
 五月二日 晴れるや 「Y氏に捧ぐ(苗字)」ゆるやかな雨だれらのすぐ傍を通り抜け、あたら若い命を空から放ってしまった。いい気味だ。「よしし氏に捧ぐ(仇名)」よくも私の家に火を点けたね。だから僕は君にガソリンを掛け、我輩はライターを投げ込んだ。君はすぐさま足元の水溜まりに飛び込んで、助かってしまったよね。実はそれは、小生が用意した小生にほんの少し残っていた良心だったんだ。「territory」「君が見た私の脱糞で、私の全てがわかったと申されるか」「少なくとも、わかった」いじらしくもその言葉を信用してしまう私が愛しい。五月三日晴れ五月四日晴れ五月五日晴れアップダウンの激しいコースの先の電信柱の後ろ側にメタリック海が広がり陽炎が海上に浮かび例え魚が打ち上がり燃えようと激しく酸化する苛性ソーダ水を濾過し咆哮する声帯の震えが肺と心の臓から更に左上に太陽が月と空回りし月は溶け肌は溶け脳味噌が溶けきった頃に咆哮する力も声帯も魚の鰓すら残っていない現状維持の為の写真撮影。努力賞すら獲れなかった。
四月四日 てっぺんとう 喉を掻き毟った。四月三日 晴れ 時代は変わった。四月二日晴れるやなにもなし。
五月七日晴れ
天窓から葉っぱが一枚吊らされている。勿論、茎からだ。両隣は既に黄味を帯び、皮一枚、と念じたところで、ぽつ、ぽつ、と回転しながら降ってきた。黄、緑、黄、緑、黄、緑、黄、緑、黄、緑、黄、緑、黄と数える行為がうっとおしくなってきた頃、私の頬に二枚、舞い降りた。虫食いがある葉っぱだ。手に取りよく目をやると、小さな虫がひょこり顔を出した。あんなにも遠くの天窓から、この小さな虫は舞い降りたのだ。私の癇に障って、小さな虫は、爪先で千切り飛ばされた。あそこから、未だ吊り下がってる葉っぱ一切れに、幾ら虫が這っているだろう、と考えるとよだれがでる。彼はそれを知っているのか。縛られているようにも見えるのだが。受験勉強の際には、雑念が後を絶たない。オペラグラスから天窓を除くと、葉っぱは聡子だった。私は狂っていない狂っていない狂っていない狂っていない狂っていない・・・・・・五月八日 晴れ 私は勝ったのだ。
四月一日 雨るや
「全て、私の嘘なの」
そう気取った、少し頬を染めた聡子に、
私は安堵の涙を溢し、
生まれたてのあかんぼの様に、
この身を贄し、
いたづらまぎれに聡子のつめをはいだ。






自由詩 吊られた葉っぱ Copyright 加藤泰清 2006-05-07 14:46:42
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