仮面の舞踏
前田ふむふむ

凍りつく落日が、煌々と浮き上がる、
退廃の翼が燃えている丘陵地帯を
毅然としたまなざしが、顔を引き攣らせて、
走り抜けてゆく。
夜ごと、記憶の手帳に書き加え続けた
凛々しい言葉は、荒れ狂う午後の海の防波堤で
空しく砕け散るのだ。

わたしは、二度と描けない、真夏の雪景色で充たした
鳥瞰図を、しげしげと暗い地下室の小部屋の
割れた鏡のなかから眺めている。

いつまで続けるのか。
この滑稽な舞踏会の会話は、
すでに壊れているメトロノームに、合せて動いてゆく。
壊れた機械が主体を獲得する冷えた溶鉱炉は、
燃え盛っているのだ。
どこまで続けるのか。
この無表情の仮面で偽る舞踏会の階段は、際限なく、
底辺に向かって、ひたすら、下り続けているのだ。

わたしは、贋作の時代が語る変奏のワルツを踊れば、
階段の勾配は、わたしの涙で充たされた瞳孔の海原を
隙間のない空白にして、乾いた血液の砂漠を、
さらに、錆びた鉄くずの廃墟に変えていく。
廃材として生産されるものは、苦悩と渇望と虚無とが、
窓に塗りこまれている、
死者が住む灰色の街に、少しずつ分配されるのだ。

だが、わたしは、洗濯された雫を振り返り、
傾斜する季節の囲墾地に塗された
いのちの若葉をひとつひとつ拾い集めて
乾涸びた機械を孕む細胞のなかに蓄えねばならない。
心地よく顔を蔽う虚飾の仮面を、
雑踏のなかで脱ぎ捨てて
春のひかりが輝く、朝の祈りで満ち溢れた
みずうみにボートを浮かべて、
清涼な時の決済をつくりだすのだ。

其のために、わたしは、磁場で歪んだ、
矛盾する腐乱した潮風を、
この、か細い胸で絶えず受け止め続けるのだ。
そして、虚栄に染まる真夏の強い西日を
あえて受け止めるのだ。
狂おしく熱望する、攪拌した経験の森が、力強く躍動する
平凡という喜びのために。





自由詩 仮面の舞踏 Copyright 前田ふむふむ 2006-05-07 06:25:23
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