ターラン王の光の剣
yuma

1.
東京ディズニーランドのさ。
シンデレラ城って知ってる?
まぁ、知らないわけ無いよな。
もう無くなっちまったけど、皆がTDLに行く度に必ず行く目玉中の目玉だ。
(TDLは東京ディズニーランドの略だ。ディズニーリゾートの方じゃないぜ)
かく言う俺も何度も行った。

これを読んでるあんたはメダル貰ったかい?
光の剣で最後の敵を倒したたった一人に送られる"アレ"だ。
貰ったとしたらきっと大事にとってあるんだろうな。
"勇者"になったのに、彼女にメダルあげちまった奴もいるんだろう。羨ましい奴。
他人事ながら、そのあと消滅なんて結末になってないことを望んでるよ。
(ヒガミじゃないぜ。本当に望んでるんだ。)
残念なことに俺は一度もメダルに触れた事はない。本当に残念だ。

初めて行ったのは勿論、両親とだ。
身長制限のない数少ないイベント。
親もシンデレラ城はダイスキだった。行かないはずは無いよな。
秘密の地下室に恐ろしい魔女。
極めつけのドラゴンにホーンド・キングに会う前に俺は大泣き。ビビりな俺。
(調べてわかったんだけど、最後のラスボスはホーンド・キングって言うんだってさ。知ってた?)
光の剣なんかもてるはずも無かった。
ホーンド・キングを"勇者"様がやっつけると俺は泣きやんだらしい。現金な俺。
それ以来、俺もシンデレラ城はダイスキだ。

学生の時でよく覚えているのは中学校の卒業旅行かな。
男だけの卒業旅行。モテない俺たち。
ほとんど貸切のような状況でバスに乗って、似たような状況で電車にも乗った。
シンデレラ城ツアーには、そのうちの5人で行った。
(参加者の半分以上を知り合いにはしたくなかったからね。)
白雪姫の女王の実験室も地下牢も相変わらず怖かったけど
さすがの俺だって、もう泣くわけにはいかないよな。
勇者選びには5人全員が手を上げた。勇者様に憧れるお年頃。
結局、誰も選ばれなかったんだけどさ。残念。


2.
一番最後に行ったのは今年の春休みだ。
付き合って二ヶ月めの恋人との定番デート。
そして定番のシンデレラ城ミステリーツアー。
我ながらさすがに下心が見え隠れ。まぁつまり、奥手な俺。
何度入っても、シンデレラ城の中はファンタジーで溢れてるよな。
俺も彼女もウキウキ。
悪役たちの声に必要以上にオーバーアクションしてても仕方ないだろ?
ディズニーランドにいるカップルなんてそんなもんだもんな。

彼女の前でいいカッコしたかった俺は本当に勇者様になりたかったんだけどさ。
魔法の鏡の前で「さぁ、手を上げるぞ」って直前で、俺は見ちまったんだよな。
俺の前で幼稚園生ぐらいのガキが一生懸命になって手を上げてるんだよ。
大人が壁になってオペレーターのお姉さんから見えないのもお構いなしさ。
そいつの母親はもう一人の子供のお守りでそいつを目立たせてやることが出来ないんだ。
そういうの見ちゃうとさ。ダメだよな。
もう手を上げられない。泣き虫な俺さ。ぐっと来たね。

そのあとの行動は俺自身もびっくりだった。
俺は自分の手を上げる代わりにそのガキを持ち上げたんだ。
急に見知らぬ男に持ち上げられたそいつは手を上げた状態で固まっちまった。
多分、俺の恋人もガキの親もその光景を見て固まったことだろう。
(当たり前。)
でも、小さな奇跡は起きた。
ツアーコンダクターは誰よりも頭一つ高い子供を指差さなければ行けない法則があるのかもしれない。
お姉さんは俺の持ち上げたガキを指差したんだ。
本当にびっくりだね。
これで見事、映画どおりの小さな勇者様の出来上がり。
小さな勇者様の持つ光の剣が輝いた。
さよなら。ホーンド・キング。


3.
そんなわけで結局俺はメダルを貰うことは出来なかった。
しかも、もう一つ欲しかったのに手に入れられなかったものがある。
シンデレラ城から出たあと、そのガキと母親が俺に礼を言いに来たんだ。
俺の立場はむしろ非礼を詫びる側な気がしてたから、礼を言われて居心地が悪かった。
(だって、いきなり自分の子供が知らない男に持ち上げられたら普通は怒るよな。)
そんな俺の心地を察しているのかいないのか
彼女はよかったね。と笑って勇者様に顔を近づけた。

なぁ皆。どう思うョ。
確かに俺は勇者様になれなかったし
記念のメダルも彼女に渡してあげることができなかったけどさ。
このキスだけは俺にくれるべきだったんじゃないかな。



光の剣とホーンド・キングは「コルドロン」という映画からの出展。
主人公の名前はターラン。


自由詩 ターラン王の光の剣 Copyright yuma 2006-05-07 04:00:03
notebook Home 戻る
この文書は以下の文書グループに登録されています。
自薦箱