「夢」 〜 新宿にて 〜
服部 剛
祝日 新宿の午後は人波に溢れて
逃れるように僕は古びた細い路地に入る
道の両脇に聳え立つ高層ビルの壁に挟まれた
細い空を見上げると吹いて来る向かい風
アスファルトに転がるよじれたタバコから
昇る 細い煙
( 何事も無く僕の踵は
( 一瞬光る残り火を踏みにじる
振り返ると
古びた路地の奥行きに
手をつなぐ
若いふたりの後ろ姿
この街に
探し物など何も無く
若き日に
手のひらを暖めた永遠のぬくもりは
過ぎ行く時間の流れに消えて
( ふと見上げた雲間の空に
( 在りし日の
( 詩人が夢に呟いた
( 風に揺らめく黒旗は
( 二十一世紀の空にも消えることなく・・・ *
人波の
川の流れの畔には
影に隠れたダンボールの家の中で
横たわる人
瞳を閉じて幸福な夢を見ている
( 高層ビル群の上に
( 一つの黄色い風船が昇ってゆく
( 誰に気づかれることなく
( 手の届かない場所へ
やがて全ての情景は幻へと薄れゆくだろう
( 階段を上る人々の後ろ姿は新宿駅の入り口に吸い込まれ
( 揺れる無数の頭とビル群の輪郭は消え去り
( 淀んだ空の雲に透けた白い太陽の下
( 音の無い世界で
( 一面に無数の色の花々が
( 風に揺れている
* 7連目は中原中也の詩を参考に書きました