そのときあなたは夕暮れの街
嘉野千尋
黄昏が近づいて
風向きがふっとかわるとき
隣り合って座るわたしたちの間には
暖かな風のように沈黙が訪れる
丘から見下ろす街並みは
最後の夕日に照らされて
あなたの横顔と同じ色に光り
過ぎた日々を、わたしに思い出させる
あのひとの傍にいるとき
わたしはいつも苦しかった
沈黙という、あのひとのリズムに
合わせられないわたしがいて
その苦しさに耐えられずに
言葉を探しては、俯いて
「風が変わったね」
あなたが独り言のように言うので
わたしもただ黙ってあなたの傍にいた
頷く代わりに、少しあなたの方へ肩を寄せて
言葉を失ったわたしたちが寄り添うとき
あなたはまるで夕暮れの街のよう
わたしのすべての、懐かしい心
遠い日の、憧れに似た
夕暮れの街