黙示風情————春
水在らあらあ
海を見下ろす高台の公園には、昔この国の王侯貴族が避暑地の別荘として利用した赤レンガ造りの建築がある。現在は音楽大学として使用されており、小春日和のお昼時に、セロ学生の太く若い旋律は白い玉砂利を撫ぜ、ピアノの伴奏が黒鍵の小指にタンポポの綿毛をはじく。
(犬) 車の音とかはいいや
みんな止まれ
(チキテロ) せかいのどんなリゾートも 過去に勝るもんはないんじゃい
むっ、ぶうううううう いやっ、失礼、 シ、セニョール.
ノー、グラシアス
(音大生) おっせーなベロニカ ベロニカ ベロニカ
(カモメ) この翼の軋みは 昨日喰ったボラの心だ
キシキシキシキシ
(犬) クンクンクン 好きだな春は くすぐったいな うあっ
なんだあんた その鬣(たてがみ)
(私) そいつはあいつのためにそいつ自身を失い
あいつすら失くし
(チキテロ) おまえに優しくするのに酒が要って
おまえは酒を飲んだおいらが嫌いなんだ
お日さんみたいに酔っ払っちまえば、 シ、セニョール、
グラシアスセニョール
(ベロニカ) 知っていて私のことを知っていて彼は私のことを
知っていて私は彼のことを知っていて彼は彼のことを
知らないから知らないから火をポケットから入れたり
出したり私はかれのことを知っていて早すぎてはやすぎて
はやすぎてはやすぎ出したり入れ
(カモメ) きのう喰ったボラの心が
宇宙(そら)のどっかと共鳴しやがるんだ
キシキシキシキシ
(クマンバチ) 私もう死ぬのかしら
だとしたらあの八重桜の柔らかな花の中で
(私) そして全部失くし 失くし 失い
くそっ
(学生) おっせーよ
(ベロニカ) 知ってる知らないはずが知らなくても
神様が知っているはずだから早すぎても神様の
優しい側面はあの人を知らないままにはさせないはず
だけど早すぎていいわでもどうにだって私私
(チキテロ) 私は皆さんのことを思っていますよ
それだけは信じてくださいよ
そこを行くあなたも
遠くのあなたも
シ、セニョール
シ、セニョール、シ
(クマンバチ) 花の中心にトンネルが見えるわ
その先には あれは 木星
(カモメ) このままラサまで飛ぶか 飛べるかよ
キシキシキシ
(パンク6) 人と人が遠く離れていなければいいんじゃあないか
だったらこの星も景気よく爆発させて
おお、エル、おい、エルビスおい やめろって
ほっといてやれってごめんなあ チノ
(犬=エルビス)ハッハッハッ なんだよっ けっ じゃーな ハポネス
(私) 失い 失い 失い
(クマンバチ) さようなら
(チキテロ) ノー、グラシアス
(ベロニカ) 早すぎてはや
(学生) おせえ
(パンク) なんだ大丈夫か姉ちゃんいや世界は
間違ってるぜほんとに社会がなあ
(エルビス) そうか間違っているのか
(カモメ) 神よ
(乳母車の母親)きれいねえきれいでちゅねえおっぱいが
張っちゃって張っちゃってほうらなかないねえ
泣かないでちゅねえはーーいおくちあーーんって
あーーんっておっぱいがおっぱいが
(赤ん坊) おなかがすいたけれど それももういいです